ウゴービとは
ウゴービは、肥満症の適応治療薬として日本で初めて厚生労働省に承認されたGLP-1受容体作動薬(セマグルチド)の自己注射剤です。元々、2型糖尿病の治療薬として開発された経緯がありますが、主な作用として膵臓に作用しインスリン分泌を促進し、血糖値を上昇させるグルカゴンを抑制することで血糖値を改善させる効果がありますが、脳にも作用して消化管の蠕動運動を抑制し食欲を抑える効果もあります。
事実、ウゴービによる68週間の治療にて体重が12.4%減少することや、さらに、糖尿病ではない肥満症患者さんの心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)の発症リスクを20%も減少させることが世界的な科学誌であるThe New England Journal of Medicine誌で報告されており、糖尿病の管理だけでなく、肥満症の管理においてもエビデンスのある薬剤と言えます。
(出典:N Engl J Med 2021; 384:989-1002)
ウゴービはいつから?
ウゴービは2023年11月22日に薬価収載され、2024年2月22日より発売されています。ウゴービの発売についてはアジアでは初めてのことであり、世界では第6か国目となります。
ウゴービと他の減量治療薬との効果比較
ウゴービ vs リベルサス
ウゴービもリベルサスも主成分はどちらも同じセマグルチドです。
しかし、ウゴービとリベルサスは次の2点の違いがあります。
- リストol_circleウゴービの適応疾患は『肥満症』であるのに対して、リベルサスの適応疾患は『2型糖尿病』であるため、肥満症に対してリベルサスは自費診療となります。
- ウゴービは週に1回皮下注射する注射薬ですが、リベルサスは1日1回早朝空腹時に内服する経口薬であり投与経路が異なります。
ウゴービとリベルサスの体重減少率に関して直接比較したデータはありませんが、まず海外の報告で、ウゴービと同成分であるオゼンピックとリベルサスとの体重減少率の比較に関して下記のデータがあります。
リベルサス vs オゼンピック
- 対象:2型糖尿病
- 期間:26週
減量治療薬 | 体重減少率 |
---|---|
プラセボ | -1.3% |
リベルサス 2.5㎎/日 | -2.2% |
リベルサス 5mg/日 | -2.9% |
リベルサス 10mg/日 | -5.2% |
リベルサス 20mg/日 | -6.5% |
リベルサス 40mg/日 | -7.6% |
オゼンピック 1.0mg/週 | -7.2% |
このデータによると、リベルサス20~40㎎/日とオゼンピック1.0㎎/週で体重減少効果はほぼ同等であるとされており、リベルサスとウゴービについても同じような結果が推測されます。
また、日本のデータでは、有意差はなかったものの、同じ成分であるリベルサス(経口薬)とオゼンピック(注射薬)との比較で、注射薬であるオゼンピックの方にやや減量効果が高い傾向がありました。
以上から、内服治療のリベルサスとの比較では、注射薬であるウゴービの方が減量効果は同等またはやや強いと思われます。
ウゴービ vs オゼンピック
ウゴービもオゼンピックも同じセマグルチドであり、同じ注射剤です。
しかし、ウゴービとオゼンピックは次の2点の違いがあります。
- リストol_circleウゴービの適応疾患は『肥満症』であるのに対して、オゼンピックの適応疾患は『2型糖尿病』であるため、肥満症に対してオゼンピックは自費診療となります。
- ウゴービの最大投与量は2.4mg/回であるのに対して、オゼンピックの最大投与量は1.0mg/回であり、投与量が異なります。
ウゴービとオゼンピックの体重減少率に関する海外の報告では、以下のようにウゴービの方が高い数値が出ていますが、オゼンピック1.0mgとウゴービ2.4mgでそれぞれの投与量が違うため当然の結果と言えます。
ウゴービ vs オゼンピック
- 対象:2型糖尿病(BMI:36.0)
- 期間:68週
減量治療薬 | 体重減少率 |
---|---|
プラセボ | -3.3% |
オゼンピック 1.0mg | -7.2% |
ウゴービ 2.4mg | -9.9% |
以上、ウゴービとオゼンピックは投与量の違いが減量効果の違いと思われます。
ウゴービ vs マンジャロ
ウゴ―ピとマンジャロ(チルゼパチド)の直接比較したデータはありませんが、ウゴービと同成分のオゼンピックとマンジャロの比較試験が欧米で1879人の糖尿病患者を対象に実施されており(SURPASS-2試験)、それぞれの最大容量であるオゼンピック1mgとマンジャロ15mgでは減量効果に約2倍の差があり、マンジャロの方が有意に強いことが分かりました。マンジャロは、持続型GIP/GLP-1受容体作動薬として2023年4月18日から使用可能となった薬剤ですが、GLP-1に加えて、GIPも同時に刺激するため、さらに強力な血糖降下作用および体重減少効果が得られるわけです。
以上より、ウゴービについては、マンジャロとの比較においては、減量効果は劣るものと思われます。
全ての比較をまとめると、
マンジャロ>ウゴービ=オゼンピック>リベルサス
の順で強い減量効果が期待できます。
ウゴービの保険適応条件
ウゴービの保険適応(使用対象)として、高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有する肥満症があり、かつ食事療法と運動療法を行っても十分な効果が得られない人のうち、BMIが35 kg/m2以上、もしくは以下の示す肥満に関連する健康障害を2つ以上有する BMIが27 kg/m2以上があります。
- リストul_circle耐糖能障害 (2型糖尿病、耐糖能異常)
- 脂質異常症(高脂血症)
- 高血圧症
- 高尿酸血症(痛風も含む)
- 冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)
- 脳梗塞または一過性脳虚血発作
- 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
- 月経異常または女性不妊
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
- 運動器疾患
- 肥満関連腎臓病
また厚生労働省は、GLP-1受容体作動薬の乱用を防ぐ目的で、ウゴービの処方可能な医療機関の条件として、肥満症治療に関連する学会(日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本循環器学会)の専門医が常勤している教育研修施設(大学病院などの大規模な医療機関)、に限定しているため、一般的なクリニックでの処方は許可されておりません。
さらに、処方期間にも制限が設けられており、発売から約1年間は最長2週間分のウゴービしか処方できないため、2週間毎に大学病院に通院する必要があります(毎月の血液検査も必要となります)。
以上より、現時点ではウゴービによる減量治療には多くのハードルがあり、基準を満たした患者さんが、全ての条件を受け入れて行うしかありません。そのため現実的には、保険診療での肥満治療は厚生労働省で定められたガイドラインが変更されるまで待つしかないと思われます。
まとめ
ウゴービは、日本で初めて肥満治療薬として国内承認を受けたGLP-1作動薬です。今後、シェア拡大に伴い、日本人肥満患者さんの健康寿命の延長に大きく寄与することが期待されています。
しかし現状では、GLP-1治療薬の乱用懸念がネックとなり、厚生労働省から厳しい処方条件が付与されているため、現実的にはウゴービを用いた保険診療での肥満治療は難しいと言わざるを得ません。
今後、治療ガイドラインが変更され、ウゴービの処方条件が緩和されれば、もしかすると一般的な内科クリニックにおいてもウゴービを保険診療内で処方できるようになるかもしれませんが、それまでは、食生活の見直しと適度な運動習慣の改善でダイエットを行っていくか、必要に応じて、自費治療(リベルサス、マンジャロ)でのメディカルダイエットをご検討ください。