不眠症外来
一言で不眠と言っても色々なタイプがあり、それぞれ対応方法(薬の種類)が異なります。
我々は、人生の約1/3の時間を睡眠に費やしており、その質の向上が覚醒時の質の向上や、様々な病気の予防に繋がることは分かっており、予防医学を推進する当クリニックにおいても、患者さんに少しでも良質な睡眠を取って頂ける様なサポートを積極的に行っていきたいと考えております。
質の高い睡眠こそ、全ての病気の予防や改善に繋がる最高の治療法と言えます。
睡眠の重要性
1.身体の疲労回復
日中の覚醒時は、交感神経が優位な状態となり、身体や脳はより活動的になります。交感神経が優位になることで、血糖値や脈が上がり、筋肉の働きなどが活発になる訳です。脳の集中力も上がるので、仕事も捗るようになります。逆に睡眠中は副交感神経が優位になります。そうなることで、血圧や脈は落ち着き、脳の活動も低下することで全身の臓器が休息を取れるようになります。この回復時間を確保しないと、徐々に身体に蓄積疲労が溜まっていき、日中も良い活動が出来なくなっていきます。
2.免疫力の向上
睡眠をしっかり取ることにより、免疫力の向上や維持が期待出来ます。
逆に、十分な睡眠が取れていないと、ホルモンバランスが崩れ、免疫機能の働きが悪くなってしまいます。実際に、風邪やインフルエンザが流行る時期は、特に寝不足が原因で感染してしまう方もかなり多くいらっしゃると言われています。
風邪をひいたら何よりもよく寝ることが大事な訳です。
3.食欲のコントロール
睡眠不足によって食欲増進ホルモンのグレリンが増加し、食欲を抑制するホルモンのレプチンが低下します。つまり、寝不足の状態が続くと、食欲は増進されていくわけです。
食欲が出てどんどん食べてしまうことで肥満傾向となり、糖尿病などの生活習慣病、メタボリックシンドロームにもなりやすくなり、多くの病気の温床となってしまいます。
食欲を適切にコントロールし、肥満や生活習慣病を防ぐためにも、まずは睡眠時間を確保することが大切です。また、睡眠と肥満の関係の中で、グレリンの増加やレプチンの低下によって食欲がコントロールできなくなること以外に、日常での活動が低下し、代謝が落ちることも関係しており、まさに負の連鎖状態になってしまう訳です。十分な睡眠時間を取ることで、代謝を改善し、栄養の吸収や回復時間を効率的にすることが出来ます。その他、筋肉もつきやすくなり、痩せやすい身体へと近づいていくことも期待出来ます。
4.精神面の安定
睡眠を十分に取ることによって、精神面の不安やストレスが減ることも知られています。不安感やストレスが多い状態では、仕事や日常生活の中で思わぬミスを誘発し、さらにストレスが増えてしまうことがあります。また、ネガティブに物事を考えて不安になってしまいがちな時は、睡眠時間が足りていない可能性があります。精神面を安定させるためにも、睡眠はとても大切です。不安になると眠れなくなるのか、眠れないから不安が増すのかという議論がありますが、これはどちらが先ということはありませんが、睡眠が十分でない状態が状況を悪くしていることだけは確かです。不安に感じる原因を突き止めて解消することも大切ですが、睡眠をきちんと取ることで、心も身体もリラックスさせてあげることで状況の改善が見込めます。
5.記憶の整理・定着
寝ている間に記憶を整理・定着させることが知られており、これも睡眠の大きなメリットです。睡眠中に、その日に起きた事や覚えた事の記憶を整理してくれます。また、同時に定着もしてくれるので、勉強をしていく上でも睡眠は欠かせません。よく言われるのは夢を見るのは、その日に起きたことや考えていたことを整理しているためだということです。睡眠は、短期記憶より長期記憶に重要な役割を果たすので、長く覚えておきたいことはしっかりと寝て定着をさせましょう。
6.成長ホルモンの分泌
寝る子は育つという言葉があるように、睡眠中には成長ホルモンが多く分泌されています。成長ホルモンの役割は、身体の成長や細胞の修復、代謝調節などを促すことです。睡眠中は均等に分泌されるわけでなく、寝始めの第一周期に一番分泌されます。そのため、寝始めの睡眠の深さは特に成長ホルモンの分泌には大事な時間と言えます。成長ホルモンと聞くと身長が伸びたり、骨格の形成だったりをイメージされるかと思いますが、大人になっても重要な役割を果たしており、特に細胞の修復などに役立っています。つまり、アンチエイジングホルモン(抗加齢ホルモン)として機能しているため、若さを保つためにも成長ホルモンは必要なホルモンと言えます。睡眠時間の確保が若返りの第1歩と言えるでしょう。
良質な睡眠をとれない患者さんにも様々なパターンがあります
入眠障害 -なかなか寝付けない-
寝ようとしても、2時間以上眠りにつけないことを入眠障害と言います。
眠りたいときに眠れないのは非常に辛いことです。
原因はいくつか考えられますが、本人が気づいていないこともあります。
例えば、明日大事な用事があり早く寝よう、早く寝ようと考え過ぎるあまり、逆に目が冴えて寝つけなくなる状態、交代勤務など不規則な生活リズムで、毎日の就寝時間がばらばらの場合、(時差ボケというのも生活リズムの急な変化に対応出来ていない状態によるものです)また、普段より急に早く寝ようとする時も、寝つけない場合があります。夜遅くまで勉強をしている受験生は、試験の前日だけ早く寝ようとしても眠れない訳です。
その他、午後遅くに1時間以上の昼寝をした日の夜は、普段の就寝時間に眠れない場合があります。
コーヒー、紅茶、緑茶などに含まれるカフェインによる覚醒作用で入眠障害となっている場合もあります。夏であれば暑さによる寝苦しさ、冬であれば寒さによる手足の冷えから入眠が妨げられることもあります。
中途覚醒 -すぐに目が覚めてしまう-
夜中に目が覚め、その後眠れない状態です。
なぜ夜中に目が覚めてしまうのでしょうか?その原因として最も考えられているのは加齢です。加齢に伴い眠りが浅くなってしまうことから夜中に目が覚めてしまいやすくなり、これは高齢者に多い傾向があるとされています。他にも不安なこと、心配事があるというストレスや、逆に翌日楽しみなことがあるといったストレスであっても眠りが浅くなり、夜中に目が覚めてしまうことがあります。
また、寝酒と称してアルコールを寝る前に飲まれている方もいらっしゃるかと思いますが、確かにアルコールは寝つきを良くしてくれますがその一方で、利尿作用があるため夜間に尿意を感じて中途覚醒を引き起こします。アルコールを飲んでから肝臓で代謝されるまで通常3~4時間かかりますので、およそ3~4時間後に中途覚醒を引き起こすことが考えられます。アルコールだけでなくコーヒーや紅茶、緑茶にも利尿作用があるため、夜間眠る前に飲用してしまうと尿意で夜中に目が覚めてしまうのです。
もう1つ、夜中に目が覚める原因として考えられるのが脳血管障害や認知症などの脳変性疾患、うつ病、睡眠時無呼吸症候群といった病気によるものです。特に睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が止まり、酸素が脳に回っていかないということもあるため、傍から見れば大きないびきをかきながらしっかり眠れているのですが、実は眠りが浅く、結果として中途覚醒を引き起こすことが考えられています。
体内リズム障害 -昼夜が逆転して昼間に眠い-
昼夜のサイクルと体内時計のリズムが合わないため、1日の中で社会的に要求される、あるいは自ら望む時間帯に眠ることができず、活動に困難をきたすような睡眠障害を言います。
症状としては、明け方近くまで寝つけず、いったん眠ると昼過ぎまで目が覚めない状態となり、無理やり起床すると眠気や強い倦怠感などの症状がみられます。逆に、夕方から眠くなり起きていられなくなり早朝に目が覚めてしまうのも、この障害の1つです。
日本には、夜勤や時差の影響で夜間に働き、昼夜逆転の生活をしている方が沢山います。そんな方の中には、「このまま昼夜逆転生活を続けていても大丈夫なのか?」と不安を感じている方もいるかもしれません。
やはり昼夜逆転は身体に悪く、自律神経系の働きが低下して不定愁訴が現れやすくなります。寝ていても交感神経系が働いている状態となり、常に身体が緊張状態になります。また血流が悪くなり脳へのエネルギー供給が少なくなります。したがって気力が低下し思考も鈍くなり、さらにはホルモンの分泌や体温管理にも異常が出ます。慢性疲労となって、すぐに疲れてしまいます。これらは、日頃からの重労働と睡眠不足が引き金となります。
当院では、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を導入しております。
その患者さんに応じて睡眠障害について適切に評価・治療するための参考とさせて頂くためのものです。初診時に御記載をお願いしております。
ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)
ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)は、主観的な睡眠の質や睡眠障害の症状を評価するために開発された質問紙です。睡眠障害のスクリーニングや治療による変化指標(アウトカム)に用いられており、過去1か月間の睡眠について、睡眠状態に関する計18項目の質問に回答して頂きます。回答は、睡眠の質(睡眠の全体の評価)、睡眠時間(総睡眠時間の長さ)、入眠時間(寝つきの良さを評価)、睡眠効率(就寝時間に対する実睡眠時間の割合を評価)、中途覚醒(中途覚醒の頻度を評価)、睡眠薬の使用(睡眠薬の使用頻度を評価)、日中覚醒障害(日中の眠気)の7つのコンポーネントに分類されており、それぞれの総合点を計算し評価します。PSQI総合得点の範囲は0~21点で、得点が高い方ほど睡眠が障害されていると判定されます。PSQIは主観的な睡眠の質から睡眠状態の良し悪しを判断するものであり、睡眠全般を評価する上で非常に信頼性・妥当性の高い尺度です。カットオフ値は5.5点であり、6点以上は「何らかの形で睡眠に障害がある群」とされています。PSQIは世界的に標準化された尺度であり、不眠症の診断基準の一つとして用いられています。
睡眠障害治療薬
ルネスタ (GABAA受容体作動薬, 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)
入眠障害に有効な睡眠導入剤と呼ばれる薬剤です。睡眠に深く関わるGABA受容体へ作用することにより、催眠作用および鎮静作用を発揮することで寝つきを良くし、眠りを持続させる働きがあります。そして、臨床的に問題となる依存性や持ち越し効果などは認められず、長期投与による耐性(有効性の減弱)も示しません。ルネスタの特徴は、その効果出現の速さにあります。内服後すぐに効果を示しますが、作用時間は短いため、翌日に眠気が残りにくい薬剤です。
ベルソムラ(オレキシン受容体拮抗薬)
自然な眠気を強くするタイプの薬剤で、中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害に有効です。入眠障害にも効果が期待できます。そして依存性が極めて少ないといわれており、止めたい時にすぐに止められます。
ロゼレム(メラトニン受容体作動薬)
体内時計のリズムを整えているメラトニンというホルモンに働きかけることで自然に近い生理的睡眠を誘導し、不眠症における入眠困難などを改善する薬剤です。メラトニンは睡眠・覚醒の周期に関係し、生理的に変動している物質で、夜間に増加して明け方に減少していきます。ロゼレムは体内時計のリズムを整えている生理的な物質に働くことで、睡眠を促進する薬剤です。そのため、昼夜逆転、早朝覚醒、熟眠障害などで悩んでいる患者さんに有効です。しかし、本来の自然な眠気を強めるタイプのため、効果は人によって異なります。やはり、依存性が極めて少ないのも特徴の一つです。
マイスリー(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)
入眠障害に有効な睡眠導入剤であり、効果の早さと切れ味の良さが特徴です。作用時間が短く、翌日に眠気が残りにくい睡眠薬であり、寝つきが悪い方に処方される代表的な薬です。しかし、ルネスタより12年前に発売されており、ジェネリック医薬品としてゾルピデム錠が発売されています。マイスリ―は、ルネスタ同様、脳の機能を低下させる睡眠薬であり、覚醒に働いている神経活動を抑えることで、眠気を促していきます。「疲れきって眠ってしまう時」に近い状態を作り出し、強引さのある効き方になります。依存性は少ないですが、漫然と投与を続けていると、止められなくなってしまいます。
デパス(ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬)
気持ちを落ち着ける効果だけでなく、催眠作用も期待できる薬剤です。よって、気持ちの不安感や緊張から不眠状態になっている方に特に有効な薬剤と言えます。しかし、ベンゾジアゼピン系薬剤の短時間作用型であるため、即効性が期待できる反面、依存性のリスクが高いです。また、ふらつきや転倒も深刻な問題になり得ます。更には、せん妄(一種の意識障害)や健忘、そして認知症などの発症リスクが高まるという報告もあります。従って、決められた1日の使用量はきちんと守る必要があります。当院では、抗不安薬としてデパスを処方することは習慣性などの副作用の問題から致しません。
自分自身の不眠のタイプを知り、適切に対応することが大切です。まずは、気軽にご相談下さい。
お薬の処方について
初診からのオンライン診療では、麻薬及び向精神薬(催眠鎮静剤(マイスリー、ハルシオン、レンドルミン、ベンザリン・ネルボン、サイレースなどの睡眠薬など)、抗不安薬(ソラナックス、コンスタン、デパス・エチゾラム、リーゼ、メイラックス、ワイパックスなど)、抗てんかん薬の一部(リボトリール・ランドセン、フェノバール、ヒダントール、マイスタンなど)の処方はできません。また、過去の診療録、診療情報提供書、地域医療情報連携ネットワーク又は健康診断の結果等で基礎疾患の情報が把握できない場合、ハイリスク薬(抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、抗不整脈剤、抗血小板剤、抗凝固剤、抗てんかん剤など)の処方はできませんのでご了承ください(診療情報提供書などで基礎疾患の情報が把握できる場合はハイリスク薬の処方は可能ですが、向精神薬は処方できません。当クリニックに定期受診されている場合は、処方可能です。麻薬につきましては、当クリニックでは処方しておりません)。
また、当クリニックへ通院中の患者様で、オンライン診療をご希望の方もオンライン診療が可能です。初診の方と同様に予約してください。
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