メディカルダイエットについて

はじめに

現代の日本では、コロナ禍において”肥満”に悩んでいる方が増えています。
行動制限を課され、ストレスも溜まり、自宅で時間を持て余して、ついつい食に走るのは仕方がないことでしょう。そんな中、薬で痩せられる、減量出来るようになり、「メディカルダイエット」と呼ばれるようになってきました。既存のものから新規治療薬まで様々な肥満薬が出てきていますが、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。実際の効果についてはどうなんでしょうか。横浜で肥満外来をやっている立場から、皆様に出来るだけ分かりやすくメディカルダイエットについて解説したいと思います。

筆者:髙倉一樹

略歴

  • 私立 精華小学校卒
  • 私立 栄光学園中学・高等学校卒
  • 東京慈恵会医科大学 医学部卒
  • 東京慈恵会医科大学附属病院、川口市立医療センター、東急病院等、複数の総合病院で消化器・肝臓内科医として勤務
  • David Geffen School of Medicine,
    University of California at Los Angeles(UCLA)に2015年4月~2017年9月まで2年半、客員研究員として留学
  • 2021年2月、地元横浜元町にてUnMed Clinic Motomachi 開業

資格

  • 医学博士
  • 日本内科学会認定医 / 指導医
  • 日本消化器病学会専門医 / 指導医 / 関東支部評議員
  • 日本がん治療学会認定がん治療専門医
  • 日本禁煙学会認定禁煙指導医
  • 日本医師会認定産業医
  • 難病指定医
  • 日本産業衛生学会 関東地方会 代議員
  • 東京慈恵会医科大学 環境保健医学講座
    非常勤講師

論文業績

 

全て英文ですので、ご参考までに。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=kazuki+takakura&sort=date

既存のメディカルダイエット薬

サノレックス

サノレックスは、1992年に国内承認を受けて以来、約30年ほど国内流通している減量を目的とした食欲抑制剤です。サノレックスの有効成分であるマジンドールが脳にある視床下部に作用して食欲を抑制することで減量を促します。治療対象としては従来、BMI(体重㎏÷身長m÷身長m)35以上の高度肥満症患者さんとされていることや、サノレックスを飲むだけで痩せるわけではなく、適度な食事制限や運動も必要であることから、サノレックスの位置づけとしては高度肥満症患者さんのための食事療法や運動療法のサポーターと考えられます。また、サノレックスには向精神作用や精神的・身体的な依存性があり、長期間の服用は副作用のリスクを高めるため、服用期間は3カ月が限度とされています。その他にも、便秘、眠気、抑うつ/興奮、かゆみ、イライラ感などの副作用が20%以上の症例で見られることも報告されており、以上の理由から、あくまで治療適応のある方には有効であると言えますが、そうでない方が内服される場合には十分注意が必要な薬であると言えます。

ゼニカル

ゼニカル(オルリスタット)は、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を受けている内服薬ですが、日本では未承認です。脂質分解酵素であるリパーゼを阻害し、摂取した食事に含まれる脂肪の吸収を30%程度抑制することで痩せることが出来る脂肪吸収抑制剤です。つまり、日頃から高脂肪食を好んで食べている方には、より効果的だと思われます。逆に言えば、普段の食事の脂質摂取量が少ない方には、あまり効果的ではないかもしれません。副作用としては、放屁、便意切迫、脂肪便、排便の増加および便失禁などの消化器症状があります。 ゼニカルはあくまで脂質の吸収を抑えるものであり、食べすぎてしまうと減量効果は期待できないため、減量のためにはゼニカルの服用に加えて食生活の改善や適度な運動も必要だと思われます。

各種GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)受容体作動薬

GLP-1受容作動薬は元々、2型糖尿病治療薬として厚生労働省から承認されている薬剤であり、薬の安全性や効果については全く問題ないものです(事実、アメリカではGLP-1はFDAに認められ、一般的な肥満治療薬となっています)。日本では、GLP-1を肥満治療目的で行う場合は自由診療(自費)となりますが、このGLP-1は脳の食欲中枢に作用し食欲を低下させ、胃腸の動きを低下させるので、満腹感を早く感じるようになり、肥満解消にはとても効果的な薬剤だと言えます(そのため、GLP-1は別名「痩せホルモン」とも呼ばれます)。GLP-1の減量効果に関する臨床研究において、オゼンピック(1回/週 皮下注)、ビクトーザ(1回/日 皮下注)、リベルサス(1錠/日 内服)の3剤の減量効果が高いことが証明されています。GLP-1により自然に食欲が低下し、食べる量が減ることでダイエット効果が得られるため、意識的に食事制限をしたり、過度な運動を取り入れなくても減量できることが大きな特徴の1つです。つまり、どうしても食欲がコントロール出来ない方や、運動が好きではない方に特にオススメです。GLP-1の副作用としては、ムカムカ感、吐き気、胃部不快感・便秘/下痢などがありますが、 多くの場合、時間の経過とともに慣れて、自然に改善します。また、糖尿病の治療薬ですが、普通に食事をしている方では基本的には低血糖になりにくいと言われており、当院でも副作用で治療を中止された方はほとんどいらっしゃいません。

新規メディカルダイエット薬

アライ

2023年2月、アライが厚生労働省より国内で初めて肥満改善薬として製造販売承認を受けました。今後、処方箋無しで、薬局で購入可能となる予定です(薬剤師による対面での服薬指導が義務づけられる要指導医薬品であるため、オンライン購入はできません)。治療効果として、消化管での脂肪の吸収を抑制し、お腹が太めな方の内臓脂肪および腹囲の減少を目的とした薬剤です。アライは、前述のゼニカルと同様に脂肪吸収阻害作用をもつオルリスタットを有効成分とした内臓脂肪減少薬であり、その含有量はゼニカル120mgに対して、アライは60mgと半量になります。ゼニカル同様に下痢や軟便、油を伴う放屁などの排便関連の副作用が出ることがありますが、容量が少ない分、副作用のリスクや程度は緩和され、より気軽に治療しやすい薬剤だと言えますが、その分、高い治療効果は期待できないと思われます。

ウゴービ

2023年3月、ついに前述のGLP-1受容体作動薬の1つであるウゴービが肥満症を対象疾患とする承認を得て、今後、保険診療で治療可能となります。これまで肥満症に対する保険適応の治療薬は前述のサノレックスや漢方薬の防風通聖散しかありませんでした。サノレックスは高度肥満症の方のみにしか使用できず、治療期間も3か月までという制限があり、副作用も問題となるケースが多く、慎重に使う必要がありました(防風通聖散は体重減量効果に個人差が大きいことが問題でした)。
ウゴービの保険適応は、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、

  • BMIが27kg/m2以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
  • BMIが35kg/m2以上

の場合、とされています。
成分は、既存薬のオゼンピック皮下注と全く同一で(名称が変わっただけ)、脳の満腹中枢に作用して食欲を抑え、胃内容物の排泄を遅らせて満腹感を高めることで、食事量をコントロールし、結果的に体重が減少する効果が得られます。
投与方法はオゼンピック同様、週1回皮下注射を行います。
副作用としては、嘔気・便秘などの胃腸障害が多いですが、これはGLP-1の消化管蠕動運動抑制効果によるものです。
特に治療期間にしばりもなく、治療効果も実証済であることから、適応のある肥満患者さんにとっては保険診療による経済的メリットの大きい薬剤だと思われます。

マンジャロ

2022年9月、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬マンジャロが2型糖尿病患者を対象として国内製造販売承認を受けました。マンジャロは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)と前述GLP-1の二つの受容体に作用する、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬であり、空腹時および食後の血糖値を改善することで、GLP-1を上回る減量効果が期待されている薬剤です。投与方法は、週1回皮下注で既存GLP-1注射薬と一緒です。ただし、日本人に対して効果が強すぎて、嘔気、嘔吐、腹部膨満感、気分不快などの消化器系副作用がより強く出現する可能性もあり、治療効果に関するメリット・デメリットについてはこれから評価する必要があると思います。

UnMed Clinic Motomachiでのメディカルダイエットについて

これまでにメディカルダイエットとして使用される薬剤について説明してきましたが、私が運営するUnMed Clinic Motomachiでは、実際にどのように肥満治療を行っているのかについてご説明させて頂きます。
まず、治療適応についてですが、やはり予防医学を推進する内科医の立場から、美容目的の患者さんへの処方は控えるスタンスで診療させて頂いております。BMI(Body Mass Index)で25以上の方が肥満症、適正BMIは22程度とされていますが、肥満予備軍の方を含めたBMIが24以上の方を治療対象とさせて頂いており、それ以下の方の治療は予防医学的にも不要と判断されるため、お断りさせて頂いております。
治療薬としては、投与に関するトラブルが少ない内服タイプのGLP-1であるリベルサスと、尿からの糖の排出を促進し、血糖値を低下させることで糖質ダイエットに繋がるSGLT-2阻害薬の1つであるカナグル錠、さらに上記2剤の補助薬として防風通聖散をご用意しております。分かっていても食べてしまう、ストレス食いで太ってしまった、といった食事量をコントロールしたい方にはやはりGLP-1リベルサスを、甘いものを好んで食べる方、暴飲暴食はしないし、ある程度運動習慣があるような方にはSGLT-2カナグルを、BMIが30以上の高度肥満の方で、より積極的に減量を進めたい方にはリベルサスとカナグルの併用療法をお勧めしております。そして、ベースの治療で効果不十分な場合で下痢が問題にならない方には防風通聖散の上乗せをご提案しています。
その上で、治療効果を最大限活かすために以下のことを患者さんにお伝えしています。

だらだらと治療せず、ゴールを決めて治療し、目標値まで減量出来たら治療を止める

理由:新規治療薬であるGLP-1の長期使用に伴う弊害についてはまだ明らかになっていない部分もあるため。

睡眠時間を毎日6時間以上確保する

理由:睡眠不足により食欲抑制ホルモンのレプチンが減少し、食欲増進ホルモンのグレリンが増加する結果、食欲が増える。また寝不足の翌日はパフォーマンスが落ちるため、エネルギー産生も低下し、カロリーを消費できなくなる。

無理なく、ゆっくりと減量を進める。1か月1~2kg程度のペースで十分

理由:結局、我慢したり、頑張ってダイエットしても、いつか頑張らなくなればリバウンドしてしまうわけで、そうならないために薬の作用を使いながら、リラックスしてストレスなくゆっくり減量していくことが、リバウドしにくい体質づくりのために重要なポイントです。

メンタルコンディションを安定させるよう心がける

理由:肥満とストレスは密接に関係しており(ストレス食いという言葉がある)、ストレスの結果肥満になったり、肥満の結果ストレスが増えたりするので、精神状態が安定していることが、より良い治療効果のために必要だと考えています。

UnMed Clinicでは肥満専門カウンセリングとしてアンチファットという
オンラインカウンセリングサービスをご用意しております。

アンチファットはこちら

“UnMed Method”として、
治療×カウンセリングによる、新しいメディカルダイエットを提案し、肥満で悩んでいる皆さんのリバウンドしない減量管理および体質改善のお手伝いをさせて頂いております。
詳しくは、HPをご参照ください。

以上、UnMed Clinic Motomachiでは、コロナ禍において特にUnmet Medical Needsが高まっている肥満に対して、予防医学の見地から内科的に治療を進めております。
新規治療薬も出てくる中で、よりストレスなく、より効果的な治療を選択し、必要に応じてカウンセリングも交えながら、その方に合ったメディカルダイエットをご提案していきたいと考えております。

この医療記事を執筆した医師からご挨拶

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ご連絡先:
高倉 一樹(Dr. Kazuki Takakura)
https://www.unmed-clinic.jp/
unmed@h-sh.org
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