貧血とは
血液中の赤血球や、その中で酸素の運搬を担うヘモグロビンというタンパク質が不足することにより、各臓器に十分な酸素量を提供できなくなった状態を指します。貧血は男性よりも女性に多く見られますが、女性が月経により血液や鉄分を失うこと、食物の嗜好の違いなどが原因であると指摘されています。成人女性の20-25%の方が貧血ともいわれています。また、高齢になれば貧血も増加することが知られています。
貧血の原因
貧血になる原因は、過剰な出血、赤血球の材料不足、血液を作る機能の低下、赤血球を破壊する病気の4つに分けることができます。過剰な出血を起こす原因には、月経、出産、外傷、潰瘍性疾患(胃・十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病など)、各種消化器がん、などがあります。
鉄欠乏性貧血
若年層に多い貧血が材料不足によるもので、中でもヘモグロビンの材料となる鉄不足で起きる鉄欠乏性貧血は若い女性の貧血の原因で最も多いと言われています。
巨赤芽球性貧血
ビタミンB12、葉酸が不足すると巨赤芽球性貧血という病気を引き起こします。
また、血を作る機能低下を引き起こす病気として、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などの骨髄の病気や、重度の腎臓病(腎不全)、関節リウマチなどがあります。赤血球の破壊は、赤血球やヘモグロビンの構造の異常や免疫系の異常により、赤血球が通常より早く壊されてしまう溶血性貧血という状態で起きます。以上、貧血にはがんや特殊な病気を含む様々な病気が隠れている可能性もありますので、軽視せずにきちんと評価することが大切です。
貧血の症状
貧血の主な症状として、疲労感、倦怠感、顔面蒼白、動悸、息切れ、などが挙げられます。進行すると、頭痛、めまい、気が遠くなる、運動中に筋肉のけいれんや胸の痛みなどの症状も出てきます。貧血があっても、初めはほとんど自覚症状がない場合や、慢性的に貧血状態にあり身体が貧血に慣れていると、運動している時だけ症状が出ることもあり、健康診断で指摘されて初めて分かる人も多いです。鉄欠乏性貧血では、爪が割れやすい、唇や舌の炎症、髪が抜ける、肌が荒れるなどの症状が出ます。また、高齢者の貧血では物忘れ症状が出て、認知症と間違えてしまうこともあるため、注意が必要です。
貧血の検査
貧血の診断に一般的に用いられているのは、血液検査の1項目であるヘモグロビン濃度(血色素量)です。WHOの基準では成人男性13.0g/dl未満、成人女性と小児は12.0g/dl未満、高齢者は11.0g/dl未満が貧血と定義されています。また、赤血球数や、全血液量に占める赤血球の割合を示すヘマトクリット値もよく用いられます。いずれも、一般的に行われている血液検査で分かるため、貧血かどうかは比較的簡単に判断出来ます。当院では迅速検査にてヘモグロビン値を当日測定可能ですので、貧血の有無及び重症度についてその場でお伝え致します。
しかし、貧血を起こす原因については、場合によっては血清フェリチン値などの詳細な血液検査の他、便潜血検査、内視鏡検査、骨髄検査、遺伝子検査など詳しく評価するため、必要時は専門医療機関を御紹介させて頂きます。
貧血の治療
当院では、最も多く見られる鉄欠乏性貧血に対して、鉄剤および鉄の吸収率を促進するビタミンC製剤を処方しております。一方、ビタミンB12や葉酸の不足による貧血にはこれらの栄養素を薬で補充します(ビタミンB12の筋肉注射)。潰瘍性病変や消化器系のがんから出血し貧血に陥っている場合は、それぞれの原因疾患に応じた治療が必要です。その他、専門的な治療が必要な貧血である場合は、血液内科専門医の診療をお勧めしております。健康診断で貧血を指摘された方、または何らかの貧血症状が出始めた方は、ぜひお気軽にご相談下さい。
鉄欠乏性貧血で鉄剤が飲めない、または飲みたくない方へ
当院では、新しい鉄剤の点滴治療薬フェインジェクト注射剤を導入しました。
鉄欠乏性貧血の患者さんに対して鉄剤内服治療を行って頂いておりますが、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲不振、或いは、下痢や便秘などの消化器症状が副作用として出ることがあるため、内服出来ない方がいらっしゃいます。
そのような方に対して、今までも点滴で鉄分の投与を行っていましたが、1本の注射に20mgの鉄が含まれているのみで鉄の含有量が少なく、貧血の改善にはどうしても連日の点滴が必要でした。
今回1本の注射で500mgの鉄剤が点滴できる製剤であるフェインジェクトが使えるようになりました。この注射剤だと1-3回の投与で、ほぼ必要な鉄分が補えるようになり、患者さんの通院回数が格段に減ります。当院でも治療可能ですので、鉄欠乏性貧血で内服薬にお困りの方がいらっしゃいましたら、是非お気軽にご相談下さい。